社内恋愛のススメ
「昨日は楽しかったです。ありがとうございました!」
ニッコリと助手席で微笑む私に、上条さんがキスをする。
そっと触れるだけのキス。
優しいキス。
触れるだけのキスは、すぐに溶けてなくなってしまった。
「それじゃ、また会社で。」
上条さんがそう言って、私を車から降ろして去っていく。
優しいキスの余韻を残して。
わずかな温もりだけを残して。
「………っ。」
ぼんやりとしていて、思考がハッキリしない。
キスって、こんなものだった?
甘くて。
蕩けそうで。
夢の中にいるのかなって、勘違いしてしまいそうだ。
まだ夢から覚めていないのではないかと、思い込んでしまいそうになる。
やばい。
本当にやばい。
何にも考えられない。
恋に夢中になるなんて、私らしくない。
あれだけ女を捨てていた私が、こんな風に骨抜きになってしまうなんて、あり得ない。
だけど、頭の中が彼でいっぱい。
ちょっとした仕草。
向けられた言葉。
私だけに見せてくれる笑顔。
私だけに与えられるキス。
そっと触れる、大きな手。
触れる度に、私の心臓が壊れたみたいに暴れる。
上条さんは、どうなんだろう。
どう感じているんだろう。
とても優しくしてけれるけど、何を考えているかまでは分からない。
上条さんは違うんでしょう?
私みたいに、戸惑っている感じがしない。
戸惑いもせず、冷静に受け止めているんでしょう?
それからしばらく、私は動き出せずに立ち止まったままだった。