社内恋愛のススメ
嘘だと思いたい。
嘘であって欲しい。
「相手は、取引先のご令嬢だってさ。さすが、上条主任!」
「あー、やっぱり。だって、あの人、社内で女連れてる所なんか見たことないもんね………。」
私じゃないの?
上条さんの恋人は、私だけじゃないの?
あの手が触れるのは、私の体だけだと思っていた。
上条さんの時間を独占しているのは、私だけだと思っていた。
でも、違うの?
どっちが真実なのだろう。
噂話が真実なの?
それとも、今までの彼が真実なの?
信じていいの?
それとも、疑うべきなの?
私、どうしたらいい………?
「………!」
起き上がり、体を丸めた私。
瞳から、無意識に溢れ出す涙。
寝かされていたベッドに、悲しい涙が染み込んでいく。
簡単だよ。
簡単なことだよ。
何を迷っているの?
上条さんを信じていればいい。
あの人のことだけを見て、あの人を信じていればいい。
それだけのことじゃない。
上条さんの言葉に嘘はなかった。
そう信じたい。
それなのに、噂話を否定出来ない。
上条さんと過ごす時間は、夢の中にいるみたいで。
今でも、それは変わらない。
これは、現実。
そう分かっているのに、どうしても現実だと思えなかった。
分かってたんだ。
いつか、こんな日が来るって。
私、分かっていた。
こんな結末が訪れること、心のどこかで予感していた。