社内恋愛のススメ



「………っ、はぁ………っ。」


荒い息。

呼吸を絶え間なく繰り返しながら、肩を激しく上下させる長友くん。




どうやら、走って来たみたいだ。

長友くんの額から、汗がスーッと滴り落ちる。


焦った様子の長友くんは、私に大きな声でこう告げた。



「有沢が倒れたって聞いて、俺………。」

「長友くん………。」


思い出すのは、春の頃。

あの日の私みたい。



酔っ払った長友くんに呼び出されて、着の身着のまま、コンビニに駆け付けた私。


長友くんに、何かがあったんじゃないか。

何か良くないことが起きたんじゃないかって、それだけが心配で。


あの時の私みたいだと思った。



今は、その立場は逆。


駆け付けたのは、長友くんで。

呼び出した訳ではないけれど、駆け付けた先にいるのは私。


ズキンと痛む胸。

ぼんやりする頭。


朧げな意識のまま、私は聞き返した。



「倒れたって、私が?」

「そうだよ。他に、誰がいるんだよ!」

「………ここ、どこ?」


倒れた?

いつ、私が倒れたの?


朦朧とする頭をフル回転させ、記憶を蘇らせる。


すぐに思い出したのは、女子社員の噂話。



「企画部の上条主任、知ってる?」

「当たり前じゃん!あの格好いい主任、社内なら知らない人はいないんじゃない!?」


思い出したくない。

忘れてしまいたい。


出来ることなら、記憶から消し去ってしまいたい。




「その上条主任、結婚するんだって!」

「ええ!?嘘でしょ?」


悲しくて。

ただ悲しくて。


裏切りを知った時に感じた気持ちだけが、胸の中に残ってる。



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