社内恋愛のススメ



「心配しないで、長友くん。大丈夫だから。」


大丈夫。

大丈夫。


私は大丈夫。


まるで、自分に言い聞かせているみたい。



こんなことで動揺したりなんかしない。


それなのに、涙が止まらないのは何故なんだろう。



止まれ。

止まって。


お願いだから、この涙、止まって。



「………あ、りさ………わ………?」


私の涙で、長友くんの動きが止まる。


動揺しているのは、私だけじゃない。

私の涙で、長友くんもまた、動揺しているのだ。



長友くんの前で、泣いたことはない。


仕事で失敗した時でも。

上司に理不尽なことで責められて、雷を落とされた時でも。


いつでも歯を食い縛って、耐えてきたから。



「………っ。」


漏れそうになる嗚咽を、手で押さえてようやく止めている状態。


長友くんの前で泣きたくない。

だけど、こればかりはどうしようもない。


自分でも、この涙を止められない。



「………っ、やだ………!」


ゴシゴシと擦っても、次から次へと溢れ出す涙の粒。


涙を拭ってくれようとして、長友くんがそっと手を伸ばす。

私は、その手を咄嗟に払い退けてしまっていた。





パシッーー……


医務室の中に響く、乾いた音。

長友くんの思いやりを拒絶する音。




こんなことがしたかったんじゃない。



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