社内恋愛のススメ



長友くんは優しいから。

ガサツだけど、根はいいヤツだから。


気を遣って、私の涙を拭いてくれようとしただけ。


だけど、嫌だと思ってしまった。



(長友くんに、そんな風に心配されたくない………。)


長友くんとは、ずっと一緒だった。

この会社に入ってから、ずっとずっと隣で仕事をしてきた。


そんな長友くんに、気を遣って欲しいだなんて思っていない。



同じ立場だから。

同じ目線でともに歩いてきたから。


気を遣われるのが、どうしても耐えられない。



プライドなのかな。

分からない………。


頭の中も顔も、見事にグチャグチャで考えが纏まらない。



手を払い退けた後の長友くんの顔。


それは、酷く傷付いたものだった。



(………!)


すぐに悟った。

悟ってしまった。


私は、長友くんを傷付けた。

大切な同僚を傷付けてしまったのだと。



入社以来、ずっとデスクを並べて仕事をしてきた人。

同じスピードで、隣を走っていた人。


そんな人を傷付けてしまった。


自分勝手なプライドの為に、私は長友くんを傷付けてしまったのだ。



「ごめん………!」


ごめん。

ごめんね、長友くん。


長友くんのことを傷付けたかった訳じゃない。



許してくれるだろうか。

こんな自分勝手な私のことを、長友くんは許してくれるのだろうか。


謝った私に、長友くんは低い声でこう尋ねた。



「………アイツのせい?」


(アイツ?)


長友くんが言うアイツが、誰のことを指すのか。

それが分からない私は、首を傾げる。


そんな私に、長友くんはこう続けた。



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