社内恋愛のススメ



「そんな………。」


そんな訳ない。

そんなはずがない。


だって、何よりもそのことに気を付けていたのに。

気を遣っていたのに。



上条さんの邪魔をしたくない。

上条さんの仕事の邪魔になりたくない。


ただそれだけの為に、上条さんとの関係を秘密にしていたというのに。


それなのに、どうして。



「………、どうして………?」

「みんなは知らない。多分、気付いてるのは俺だけ。」


気休めになるかも分からない、長友くんのそんな言葉。



長友くんは知ってたんだ。

気付いてたんだ。


私と上条さんとのこと。

他の人が知る前に、長友くんだけは分かっていたんだ。



「噂、聞いたんだろ?あの噂、聞いたから………。」


こうなったんだろう?

こんなに追い詰められているんだろう?


真実を見抜いている長友くんが、小さな声でそう呟く。



社内の噂に疎い私の耳にも届いたのだ。


長友くんだって、知っていてもおかしくない。

知っていて、当たり前。


それほど、社内に噂が広まっているということ。



「あ、あ………はは………。」


情けない声で笑うことしか出来ない。


だって、そうでしょ?



みっともない。

27歳にもなって、本当に情けない。


社会人になって、恋人のことで動揺して。

挙句の果てに、倒れて。


恥ずかしい限りだ。



(何をやってるんだろう………。)


自分の行動を恥じて、自然と目を閉じる。


落ちていく心。

沈んでいくだけの心。


そんな私とは対照的に、長友くんは怒っている様だった。



< 84 / 464 >

この作品をシェア

pagetop