社内恋愛のススメ



「上条主任のせいだろ。………違う?」


長友くんはわざと主任の部分を強調して、そう言う。


長友くんの言葉には、刺々しさがある。

意図的に誰かのことを攻撃する様な、そんな刺々しさが。


いつもの長友くんらしくない。

明るい彼らしくない、そんな言葉だった。



「な、何で………?」


気付かないでよ。

触れないでよ。



「上条主任は関係ないって。嫌だなぁ、長友くん………!」


掠れた声で、必死に言う。


長友くんの中にある疑いを消したくて。

長友くんが抱いた疑念を消したくて。



私と上条さんの関係は、社内では秘密。


仕事をやりにくくならない様に。

他人に気を遣われない様に。


上条さんとそう決めたから。

大好きなあの人と、そう決めたから。


その約束を、今でも守ろうとしている自分がいる。



バカみたいだよね。

自分でも、そう思う。


分かっているのに、あの約束を守りたい。



私の中には、2つの自分がいる。


上条さんを信じてる。

上条さんのことが、好きで好きで仕方ない自分。



もう1人は、真逆のことを思ってる。


上条さんに裏切られた。

ずっとずっと好きだった人に、呆気なく裏切られた。


そんな彼のことを憎いと思う自分。



どっちの自分も、自分。

私なのだ。


今はかろうじて、上条さんのことを信じている自分が勝っているだけ。



信じたい。

信じていたい。


今はまだ、上条さんのことを信じていたい。



「俺、知ってるよ。」

「え?」

「………お前達の関係、知ってる。」


長友くんの意外な言葉。

長友くんが俯いて、ベッドの端に腰かける。


その言葉に、私は衝撃を受けていた。



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