社内恋愛のススメ



トゥルルルルーー……


機械的な電子音が、広いフロアに鳴り響く。

その音自体は、珍しくも何ともない。


社外からこの企画部に電話がかかってくることなんて、しょっちゅうある。

社内でも、電話で他の部署とやり取りするのは日常茶飯事。



ただ、気になった。

その電話の音が、やけに気になった。


理由は分からない。

何となくとしか、言い様がないけれど。



いつもは全く気にならない電子音が、妙に気になる。

ふとキーボードを叩くことを止め、電子音が鳴る方向へと視線を向ける。


そこにいたのは、上条さん。


私の恋人であるはずの人だった。



「はい、企画部の上条ですが………。」


落ち着いた声音で、そう応対する上条さん。


低い声が、鼓膜に響く。

その度に、ドクンと心臓が跳ねる。


最初は落ち着いて話していた上条さんだったけれど、次第にその落ち着きは失われていった。



「いや、ちょっと………それは待ってくれ。」


小声でヒソヒソと話す上条さん。

その声はとても小さく、ようやく私の耳に届くほど。


私は、すぐに異変に気が付いた。



きっと、それはいつも見ていたから。

入社した頃から、いつも上条さんのことだけを見てきたから。


だから、他の人よりも、ほんの少しだけ早くその異変に気が付いたのかもしれない。



おかしいのは、仕草。


目線は泳ぎ、受話器を持ちながらも、空いている方の手でデスクをトントンと叩いている。

落ち着きがないのは、誰が見ても明らか。


上条さんの変化に、周りの人間がやがて気付いていく。



< 89 / 464 >

この作品をシェア

pagetop