社内恋愛のススメ
トゥルルルルーー……
機械的な電子音が、広いフロアに鳴り響く。
その音自体は、珍しくも何ともない。
社外からこの企画部に電話がかかってくることなんて、しょっちゅうある。
社内でも、電話で他の部署とやり取りするのは日常茶飯事。
ただ、気になった。
その電話の音が、やけに気になった。
理由は分からない。
何となくとしか、言い様がないけれど。
いつもは全く気にならない電子音が、妙に気になる。
ふとキーボードを叩くことを止め、電子音が鳴る方向へと視線を向ける。
そこにいたのは、上条さん。
私の恋人であるはずの人だった。
「はい、企画部の上条ですが………。」
落ち着いた声音で、そう応対する上条さん。
低い声が、鼓膜に響く。
その度に、ドクンと心臓が跳ねる。
最初は落ち着いて話していた上条さんだったけれど、次第にその落ち着きは失われていった。
「いや、ちょっと………それは待ってくれ。」
小声でヒソヒソと話す上条さん。
その声はとても小さく、ようやく私の耳に届くほど。
私は、すぐに異変に気が付いた。
きっと、それはいつも見ていたから。
入社した頃から、いつも上条さんのことだけを見てきたから。
だから、他の人よりも、ほんの少しだけ早くその異変に気が付いたのかもしれない。
おかしいのは、仕草。
目線は泳ぎ、受話器を持ちながらも、空いている方の手でデスクをトントンと叩いている。
落ち着きがないのは、誰が見ても明らか。
上条さんの変化に、周りの人間がやがて気付いていく。