社内恋愛のススメ



(親しげに話しかけなければ、平気だよね………?)


大丈夫。

きっと大丈夫だ。


そう、自分を納得させる。


上条さんに近寄ろうとした時、ドアを開ける音がわずかに耳に入ってきた。






キィーーー………


企画部と廊下を隔てる薄いドアが、ゆっくりと開かれる。

薄いドアの向こうにいたのは、1人の女性。



ドアの端から見える、サラサラの黒髪。

うねりもないその艶やかな髪が、彼女の動きとともに揺れる。


小花柄のチュニックに、真っ白なサプリパンツ。



彼女が持つ清楚な雰囲気を、彼女が纒う服がより際立たせている。


とにかく、綺麗な女の人。

その一言に尽きる。



花みたいな人。

それも、一際鮮やかな花。


凛と咲く、百合の様な。


そこにいるだけで、味気ない社内の風景が華やかなものに見えてしまう。



年は、私と同じくらい。

それか、私よりも少し若いはず。


ふっくらとした唇が、言葉を優しく紡ぐ。


彼女の唇が紡いだのは、意外な人物の名前。



「仁さん!」


仁さん。

その名前を知らない人なんて、このフロアにはいない。



上条 仁。


企画部の主任の名前。

そして、私の恋人の名前。


私が呼んだことのない、その呼び名。



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