社内恋愛のススメ
彼女の声が聞こえる度に、心にヒビが入る。
パリンと音を立てて、ガラスの様に砕けていく。
残ったのは、痛みにただただ耐える私の心の残骸。
「文香………。」
文香と彼女をそう呼び、上条さんが彼女に駆け寄る。
大好きな人の姿が、スローモーションみたいに映った。
ゆっくりと、ゆっくりと。
頭の中を繰り返し流れる、2人の姿。
頭が痛い。
心が痛い。
全てが現実を拒否して、反応を起こす。
一気に沸き上がる室内。
焦った様子の上条さんとは対照的に、微笑みを絶やさない彼女。
私は、傍観者。
眺めているだけの存在。
私は2人の様子を、遠くから眺めていることしか出来なかった。
「………。」
言葉が出ない。
出て来ない。
私はどうしたらいいのだろう。
みんなみたいに、盛り上がればいいの?
冷やかせばいいの?
主任を訪ねてきた人を見て、騒ぎ立てればいいの?
そんなの、無理。
そんなの、出来る訳ない。
こんなに苦しいのに、笑えないよ。
こんなに息が詰まりそうなのに、騒げないよ。
隣に、大きな影が差した。
「………有沢。」
長友くんがいる。
私の隣に、長友くんが立っている。
触れそうなほどに近く、だけど決して触れない手。
私と同じ様に、遠くから眺めているだけの長友くん。
みんなみたいに騒ぐこともなく、私の名前を呼んでいる。
心配そうに。
しかし、そんな長友くんの声は、私の心にまで届かなかった。