社内恋愛のススメ
あの人は、誰?
あの人は、誰なの?
聞くことの出来ない問いかけが、頭の中をグルグル回る。
噂の彼女が、あの人なのだろうか。
取引先のご令嬢。
私みたいな一般家庭で育った普通の子供じゃなくて、本物のお嬢様。
あの噂は、本当だったの?
思い違いじゃなくて。
勘違いでもなくて。
噂が間違っているとは限らない。
噂がそのまま、現実のものとなる。
ねぇ、教えて。
上条さん、教えてよ。
ギュッとスーツの裾を掴んで、俯く。
少しでも、2人の姿が見えない様に。
視界に入らない様に。
下を向くくらいしか、今の私には出来ないから。
そんなことしか、出来ないから。
俯く私に気付くはずもなく、遠い所にいるその人は甘えた声でこう囁いた。
「仁さんの携帯にかけても出て下さらないから、心配で………。」
「今は、就業時間内なので。」
「つい、会社まで来てしまったの。ごめんなさい。」
申し訳なさそうに、そう言う彼女。
だけど、しっかり上目遣い。
あの人は、自分のことをよく分かっている。
どうすれば、自分が可愛く見えるのか。
どうすれば、自分をより美しく見せることが出来るのか。
男の人の心を鷲掴みにする術を知っているのだ。
「会社にまで来られるのは、困るんだが………。」