社内恋愛のススメ



「部長、まだ正式にお受けした訳ではありませんので。」


スパッとそう言い切って、上条さんはこちらに目を向ける。


私を見てる。

明らかに、私のことを見ている。



控えめに。

だけど確実に、上条さんは私のことを見つめている。


その瞳には、どんな想いが込められているのか分からない。



何を思って、私のことを見てるの?

何を考えて、私のことを見てるの?


顔を上げたその瞬間、文香さんの後ろからもう1人誰かがやって来るのが見えた。





その人は、中年の男性。


薄いグレーの高級感のある生地で仕立てられたスーツが、わずかに光沢を放つ。

グレーのスーツの奥から覗く、真っ白なシャツ。



スーツはキッチリしているのに、シャツのボタンは外していて。

ラフに高そうなスーツを着こなす、そのセンス。


品の良さは、主張しなくても全身から伝わってくる。



似ている。

そう、似ているのだ。


文香さんの纏う品の良さと、とてもよく似ている。



雰囲気だけじゃない。

品の良さだけじゃない。


顔立ちも、どことなく似ている気がする。


白髪混じりの髪をフワッと後ろに流したその人を見るなり、部長は慌てて頭を下げた。



「お、小倉社長………、お久しぶりです!!」


飲んだら部下に絡み出す、社内でも有名な宴会好きなその人が、仰々しくお辞儀をしている。


そこら辺にいる人に頭を下げるほど、部長の肩書きは軽いものじゃない。

この人が頭を下げるのは、それ相応の人間にだけだ。



社長という肩書き。

彼女と同じ、小倉という姓。


予想通りの答えを、文香さんが口にする。



「お父様!」

「おお、文香か。こんな所にいたんだな。」



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