社内恋愛のススメ
夢から覚めるって、こういうことなのかな。
上条さんと一緒にいる時間は短かったけれど、幸せで。
だけど、それは夢だったのだ。
現実は、こっち。
上条さんの隣にいるのは、私じゃない。
上条さんの隣にいるべきなのは、私なんかじゃない。
上条さんに釣り合わない私よりも、初めて見る彼女の方が相応しいと思えるなんて。
(………っ、上条さんはあの人と………結婚する。)
私じゃない人を選んで、私じゃない人と結婚する。
そうなることを選んだ。
噂じゃない。
幻でもない。
信じたくないこの状況が、現実なんだ。
「………!」
フラフラする。
視界がぼやけていくのは、どうしてだろう。
現実との境が滲んで、なくなっていく。
真っ白なパレットの中で混ざり合う、たくさんの色。
マーブル模様を映していく、私の目。
そのパレットは、悲しい色で満ちている。
青。
藍色。
紫色。
そして、黒。
今にも溢れ出しそうな悲しい色を、私は必死に無色に変えていく。
色なんて、消えてしまえ。
感情なんて、なくなってしまえばいい。
私の心も、この世界も、全部無色透明になってしまえばいいんだ。
悲しみに暮れる私を置いて、会話は進む。
「ほう、上条くんも結婚か。水臭いなぁ………、そういうことは早く言いなさい!」
嬉々として、そう言う部長。
部長の目尻にシワが寄る。
そんな部長と同じくらい、嬉しそうな顔の文香さん。
「ご報告が遅くなって、すみません。」
文香さんは頬に手を添え、真っ赤な顔を隠す素振りを見せる。
ただ上条さんだけは、嬉しそうな2人とは違う表情を浮かべている様に見えた。