彼女のすべてを知らないけれど

目が覚めると、夕方だった。あれから丸 1日近く寝ていたっていうの?

こんなに長い間意識を失うなんて初めて だった。自分の体調がどれだけ悪かった のかを改めて思い知る。

おでこにのせられたおしぼりは交換され たばかりなのか、まだひんやり冷たくて 気持ちいい。あれからずっと、ウィンク ルムが取り替えてくれてたのかな?

早く起きて、もう大丈夫だって言わない と。そう思うのに、体が重くて動けな い。

どうしよう。夏休み中とはいえ、明日は ポスティングのバイトがあるのに……。

スマホを手に取り、カレンダーを見てい ると、

「明日のバイトはキャンセルした方がい いわよ」

俺の起きる気配に気付いたのか、いいタ イミングでウィンクルムが入ってきた。 こっちは静かにしていたつもりだったの で、目覚めたことに気付かれてビックリ した。

「よく分かったね、俺が起きたの」

「猫だった頃の感覚がたまによみがえる のよ。特に、物音や人の気配に敏感なと ころは時々出るわ」

「そうだったんだ……。大変だよね、人 間になっても猫としての感覚が残ってる なんて」

「時々だし大したことないわよ。それよ り、大変なのは私じゃなくあなたよ。バ イトは休みなさい。

あなた自覚ないみたいだけど、先週のポ スティング中、雨に濡れたせいでこうし て寝込むハメになったんだから」

「わかったよ……。心配かけてごめん ね」

それから、じいっと監視するようなウィ ンクルムの視線に耐えつつバイト先に連 絡をし、明日は休むと伝えた。こんな体 調じゃ行っても何もできないし迷惑かけ ちゃいそうだから、休みの許可をもらえ て本当によかった。

ホッとしていると、心なしかウィンクル ムの表情も和らいでいた。

フラれた身なのに、ちょっとうぬぼれて しまいそうになる。

先週のポスティングで雨に濡れたこと、 俺はすっかり忘れてたのに彼女は覚えて てくれた。それだけ俺のことを注意深く 観察し心配してくれているのかっ て……。
< 191 / 211 >

この作品をシェア

pagetop