彼女のすべてを知らないけれど
こっちの質問や驚きを完全スルーし、黒スーツの男はそのままの体勢で言った。
「近頃、巷(ちまた)には草食系男子が増えているそうだが、日本人は戦国の世を支えた熱い心を忘れたのか。なんと嘆かわしい……!」
「あの、今は平成なんで……」
一人でブツブツ文句を言う怪しいイケメンに、俺は思わずツッコミを入れてしまった。何となく、反射的に。
「生意気を言うな、若造! 我(われ)はお前のことを言っているのだ!」
「ええええ!?」
男に指を指され、ひるんだ。
「ったく。『紳士的』と『ヘタレ』を履き違えるなど、愚かな!
弱き者を見捨てるなど、なんたる失態!! 」
なにやら一人でキレている謎の侵入者に、 俺は声を大にして、もう一度尋ねた。
「あの! あなたは誰なんですかっ!? どこから入ったんです??」
「おお、まだ名を告げていなかったな。我としたことが」
コホンと咳払いをし、男はスーツの襟を整えた。
「我は、命を司る神だ。名をミコトと言う。よく覚えておけ」