恋のち、飴玉
ふっと湯気を吹き飛ばすように軽く息を吐き出せば、湯気はゆらゆらと頼りなげに揺れて揺れて、そしてまた元に戻るようにふわふわと立ち上がり始める。
そんな子どもじみたことを繰り返していれば、先程までぶすくれていた彼が、私の座る席の向かいにゆったりとした動作で静かに腰かけた。
「……落ち着くな」
「うん」
ここは私の憩いの場。少し前に見つけた私の逃げ場所。
私たちは多くは言葉を交わさない。それでも、否、だからこそ、この空間は私にとって安心できる場所。
唯一の、張り詰めた気持ちを緩ませることができる場所。
「―――ニャア」
緊張していた体の力を抜いて、椅子の背もたれに背中を預けた瞬間、彼が溺愛してやまない一匹の猫が突然現れた。
その一鳴きを聞いた途端勢い良く腰を上げた彼は、視線の先の猫を凝視したまま一切の動きを止める。