2ndアルバム〜あの日の鼻歌〜
数日後、
周囲の予想通り楠木の作品が優秀賞をとったとの報せが届き、他の入賞作品と一緒に県立美術館に展示される事になった。




俺は足早に会場を回り、楠木の描いたA4二枚分程の大きさの油絵を発見した。

彼女が今回に向けて制作していた絵画が目前に広がる。





黒よりも深淵さを見せる夜色をペインティングナイフで厚塗りした背景。

そこに白基調で描かれた、梟と蛙。


鳥獣戯画のようなデフォルメを施された蛙は、人の赤ん坊のようにペタリと座り込み、そのつるりとした背をこちらに向けている。


そしてその付近には大小、新旧様々な本が散らばり、不安定ながら高々と積み上げられた本の上に、不気味な梟がいた。



メンフクロウを元にしているらしいその梟の顔は人肌のようで、大きく感情の見えない人間の目があり、本来クチバシがあるはずのそこには大きな鷲鼻がある。

本を開く脚は筋肉のついた人の腕で、梟らしく真後ろに首を回し、目下の蛙をただ見下ろしている。



蛙は、憧れとも羨望ともとれる眼差しで、梟を見ているように見える。










「………」

言っちゃなんだが、何度見ても不気味な絵面だった。

しかし、不思議な事に強烈に惹かれてやまない何かがある。









俺はそっと、コンセプトの書かれた紙に目を落とした。
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