密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
直属の上司にそう言われて、意気地のない私は『もう嫌』と泣き腫らした目を黒縁の眼鏡で隠しながら辞表を提出してしまった。
悪気があってもなくてもそんなのどっちも同じ。傷ついた事にかわりはない。尊敬していた上司だったから、そんな目で見られていたのだと余計に幻滅した。
それ以来、亮に俺の給料で生活させてやってるんだから家事くらいしっかりやれよ、そんな風に思われないように、言われないように、やらなきゃいけない。と思い詰めるようになった。
不手際がないように。
「松本さんの奥さんって」
と、ご近所で言われるんじゃないか。
姑の耳に悪い噂が届いてしまうのではないか。
不安が不安を募らせた。
私の身体には、変な引け目と厄介だけど正しいプライドが長々とだらだら住み着いている。