密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 この家だって新築で買った当時のまま、なるべくそのまま汚さないようにと一生懸命掃除をし、磨いてきた。

 仕事は遊びじゃない。亮が毎朝、満員電車に吐き出せない気持ちと溜め息を乗せて身を委ね、職場で頭を下げ、どれだけ大変な思いをして日々働いているのかわかっているつもりでいる。そこには社会と向き合っている男の別の顔がある。

 亮が働いてくれるからこの家があって、そこに私たちの生活がある。

 玄関からリビングへ続く白い壁を汚しはしない。それは私が守り抜くべきもの。

 お風呂のタイルの目地も排水口も、キッチンのシンクも蛇口もいつだってエンゲージリングのように輝いている。今日も綺麗だ。


 なのに主婦の仕事振りは社会の片隅に置かれ、当たり前にしか思われない。やって当然。



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