密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 血縁関係があると憎しみや恨みが消えなくなる。古くなった家全体に憎悪が沸き出した。

 あんなに壮絶な喧嘩を繰り返しても離婚しなかった二人。それが不思議でならない。

 今こそ思いの丈を吐き出してやろう。どうせ死んでしまえばもう会う事もないのだからどうなろうとも構わない。

 そう思った瞬間、『パチンパチン』という音が聞こえてきた。

 なんの音だろうと、小さな庭を覗くように見ると、縁側で母が父の足の爪を切っているではないか。新聞紙を広げてその上で。

「……悪いな」

「なに言ってんの。目が悪くなったんだから仕方ないじゃない。歳とればお互い様よ」

 白髪になった父と母。

 小柄だった母は更に小さく、常に威勢を張り巡らせていた父の背中はまるで嘘のように静かになっていた。
 
 まだ顔もよく見ていないのに泣けてきた。




 こういうのも夫婦愛なのだ。


 血縁関係のない男女が長年連れ添った夫婦愛。



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