時間の本



ふ、と。おばあさんは瞬きをしました。するとどうでしょう。一輪の花だけが、彼女の隣のベンチの上で風に揺らされておりました。彼女はそれをしわしわの手で取ると首を傾げました。

そこで、庭から声が聞こえてきます。

「ばあさん、なにをしておる」

畑仕事から帰ってきたおじいさんがおばあさんを見つけて寄って来ました。幼少期から幼なじみとして付き合ってきた二人は、両親から快諾を得て晴れて結婚し、こうして長年、二人っきりで暮らしてきたのです。

「忘れてしまったの」
「おいおい」
「ああ、でも」

花がそよそよと揺れています。春の足音は、もうすぐそこです。

「素敵なことだったわ。きっと」

おばあさんはそう呟いて、夕日を眺めました。秘密ごとを見つけた子供のように、そうして、小さく微笑みました。

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