偽善愛で夢を見て。


なんだ、お前か。
言われた言葉の冷たさに、紅だと気付く。
オバサンとオジサンの靴がない。

「ジジィとババァなら居ねぇぞ。旅行だからな。」
「ねぇ。紅は今、彼女いる?」


覆い被せるように言葉を紡ぐ。

届かなくていい。

胸を打つ、焦燥感を消してくれるだけで。


いない、と言われた瞬間からだは動く。



何人もの男に、偽りの愛を送ってきた唇で紅の口を塞いだ。

目を瞑ったから判らないが、驚いているのではないだろうか。

俺様な紅が、顔を見せた。



乱暴に抱き上げられ、ベッドに落とされる。

激しいキス。

思考回路を麻痺させて。

考えることをさせないで。


今はただ、私だけを見て。








私を、独りにしないで。










< 10 / 41 >

この作品をシェア

pagetop