不完全な完全犯罪・霊感探偵瑞穂誕生【完全版】
 有美がどんなにも心細いか。

それを知りながら。

それでも屋上へ出て行けなかった。


(――俺は臆病者だ)

そう思ってもどうしようもない。


みずほが知ったらきっと怒るだろう。

仲良しの有美が苦しんでいるのに……

殺されるかも知れないのに……

そのことを知りながら、俺は怖じ気付いている。

そんなカッコ悪い俺の姿を見たら。
と――。




 「おかしいわね。何故みんな来ないの?」
百合子が言い出す。


「用事でもあるんじゃないの」
千穂も言う。


「みんなが来ないと私達帰れないじゃない。千穂本当にみんなに言ったの?」


「当たり前よ。ちゃんと言ったわよ!!」


「それじゃー、何故来ないの?」

百合子は少しイライラしているようだった。


みんなが此処に来られない訳は俺にあった。

俺がドアに張り付いていたから、途中で引き返していたのだった。


(――やっぱりこの二人は、みずほが堕ちた時居なかった。

――他人に殺しを任せて、自分を保護したのか?)

俺は又怒りに震えた。


百合子はきっと完全犯罪を狙ったのだ。

クラスメートを焚きつけて……




 その時。
コンパクトが急に力を帯びた。


俺は慌ててコンパクトをポケットから取り出した。


みずほの愛。
もうそんなレベルではないことは、俺自身にも解っていた。


それには怒りに満ち溢れていた。

コンパクトのロックが勝手に外れ
《死ね》
の文字が揺らぐ。

そして……
邪悪な何かが其処から飛び出してきた。


俺は度肝を抜かれて、その場にへたり込んだ。


(――ヤバい!
ヤバ過ぎる!!


――一体これから何が始まりんだ!!)




 現れたのはキューピット様とは似ても似つかない邪悪の塊だった。


俺はその圧倒的なパワーに恐れおののいていた。


(――こんな者を呼び出したりして大丈夫なのだろうか?)

焦りと不安が襲う。

後悔に苛まれる。


未熟者故の葛藤を繰り返す俺。
でももう、誰にも止められない。


(――放っといてもきっと始めたことだ。

――でもこの怒りは何処から来るのだろう?


――俺に向けられたんじゃないはずだ)

俺はそう思うことにした。


(――第一……
この文字を書いたヤツが悪いに決まってる!!

――そうだよな?
何か間違っているか、みずほ……)




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