ボレロ - 第二楽章 -
珠貴は誰に呼び出されたのか。
彼女が電話を受け取り、ウソの情報を鵜呑みにしてしまったのだから、信用で
きる相手からの電話だったのだろう。
または、その人が誰かに脅されて珠貴に偽りの電話をかけた可能性もある。
本来なら須藤社長が出席するはずの会合に、急な予定変更で珠貴が赴いた
ことから、霧島君の会社から珠貴を誘い出すための事前の準備はなく、とっさ
に仕組まれたものなのか。
いずれにしても会社トップのスケジュールを把握できる人物が、今回関わって
いるのは間違いないようだ。
私が知る限り、珠貴が最後まで一緒にいたのは櫻井祐介だ。
彼は駐車場まで送るといいながら、結局私たちの元へは戻っては来なかった。
同じ車に乗って行ったのか、または、彼女を迎えの車に引き渡してそのまま
帰ったのか。
その答えをもとめるべく櫻井の会社へと問い合わせ、櫻井祐介にコンタクトを
試みたが彼の居場所はつかめなかった。
『櫻井企画部長は、本日は外部の会議に出席しております』
『戻られるのはいつごろでしょうか』
『それは……私どもにもわかりかねることでして……
櫻井が戻りましたら、折り返しご連絡差し上げるよう申し伝えますが』
『では、そのようにお願いいたします』
対応したも者も隠すような話し振りではなく、本当に知らないといった様子
だった。
それでは櫻井は今も珠貴と一緒にいるのか。
歯がゆいことではあるが、彼女が一人でいるよりは安心できる状態と言える
かもしれない。
もしや櫻井が珠貴を連れ出したのかとも考えたが、それはないだろうとすぐに
可能性を打ち消した。
そんなことをしても彼には何のメリットもなく、監禁などなんの意味もない
ことなどヤツは充分にわかっているはずだ。
では、櫻井の周囲にいる者が先走って事を進めたのか。
いや、櫻井ばかりに注意を向けてはいけない、もっと広く考えなければ。
気ぜわしくめぐる頭の中を静めるために、月のない暗い空を見つめ大きく
深呼吸をした。
しばらく様子をみよう、紗妃ちゃんが帰宅すれば何かがわかるかもしれない。
家の中で異変を感じれば、私に連絡してくるだろうと思われる。
誘拐となれば、必ず家族に連絡があるはずだから……
最悪の状態を頭に描き覚悟を決め、すぐにでも動き出したい衝動を抑えつつ、
闇から浮かび上がる夜景となった下界を遮断するようにブラインドを閉じた。