ボレロ - 第二楽章 -


「ようやく話ができる環境になりました。

私のおしゃべりにつき合わせてしまった」


「いいえ、それだけ用心する必要がある。そういうことではありませんか」


「君の言うとおりです。本題に入りましょう」



ソファに座るよう勧め、私が腰を落ち着けるのを見届けると知弘さんはすぐに話

を切り出した。



「私の電話に何も聞かずここへきた。

近衛君は、すでに知っていると思っていいのでしょうね」


「彼女の所在が明らかではない……ということでしょうか」


「ではなぜそのような事態になったのかは?」


「わかりません。ですが、経済速報で流れたクレームの一件が、

関係しているのではないかと考えています」


「これは驚いた。そこまでご存知なら話は早い。 

そのまえに、君に聞いておきたいのですが……

珠貴とは、まだ期限付きの恋人の契約中ですか」


「そんなことは断じてありませ。私にとって彼女は……

何ものにも代え難い存在です」 


「それを聞いて安心しました。聞かずとも君の顔を見た瞬間わかったが、

一応確かめたくてね」


深い笑みを見せると、知弘さんが帰国にいたる経緯を話しはじめた。

事の起こりは数日前にさかのぼる。

製造した生地の中に肌にアレルギーを引き起こす物質が入っており、それによっ

て肌に異常を訴える人がいた。

取り扱った問屋連中が、こんな製品は扱えない、商品の回収をと本社に訴え、こ

れ以上の取引はできないと言いだし、さらに責任をとってもらうべく社長の退任

を要求したという。



「そんなことと言っては語弊がありますが、クレームのひとつやふたつ、

どこの企業にもあるものです。

それを即社長退任とは、少々横暴すぎませんか」


「こういったことが初めてならそうかもしれませんが、

繰り返したとなると会社の信用に大きく関わってきます。

今回と似たようなことが以前にもあったのです。

責任者の退任と賠償金の支払いで乗り切りましたが…… 

またとなると……難しい問題です」



以前の一件については、珠貴から聞いたことがあった。

買収した工場があり、そこが開発した素材に欠陥がありクレームが出た。

ところが、『SUDO』  の名で販売されていたため責任を取って当時の社長が退

任し、現社長に事業を引き継いだ。



「確かに前回は社長が責任を取って退任し、それで事が収まりました。 

ですが、今の社長の考えは、辞めるのはいつでもできる、

まずはこのような事態を引き起こした原因を追究すること。

こちらの落ち度が本当なら過ちを認め謝罪をし、

二度と同じような事態に至らぬよう指導を徹底する。 

その上で責任をとりたいと」


「須藤社長は、トップとしては一番困難な道を選んだのか……

起因する事柄を突き止め、事後の処理までも責任を持つ。 

次へ繋ぐ者に、しこりを残さず引き継ぎたいということではありませんか」


「その通りです。すぐに取締役会が招集され、私にも帰国の要請があり、

至急帰ってきたのですが……意見が割れましてね」



社長が、退任はしない、最後まで責任をとり後始末がすんだのち、後継者へ引き

継ぎたいと胸のうちをあかしたが、専務と常務からそれでは困ると反論があった

そうだ。



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