ボレロ - 第二楽章 -
それだけではありません、ほかにも思い当たる相手がおりましてと知弘さんの言
葉が続く。
「クレームを訴えた問屋は、大きな取引先と太いパイプがあり強力な力を
もっています。
取引の差し止めを小さな問屋にまで指示し、こちらを窮地に追い込むことだって
できる。
銀行に揺さぶりをかけることも可能です。
小さな問屋など、融資先がなくなれば、
その時点で事業が立ち行かなくなりますから」
「大元の会社を脅して、彼らにメリットがあるんですか」
「あるんでしょうね。実際、要求を受け入れられないのなら、
こちらにも考えがあると言ったそうですから」
そして、それは起こった。
社長の代理で会合に出かけた珠貴が、午後から連絡を絶っている。
足取りをたどったが、霧島君の会社を出た後から消息がわからなくなった。
さらに、社長が入院したため迎えの車が差し向けられ、その車に珠貴が乗ったよ
うだとわかり事件の様相を深めたのだった。
珠貴が何者かに連れ去られたのは間違いないようだ。
取締役会の結果 ”社長退陣は保留” と決まるや否や、原材料の取引のある商
社から入荷見合わせの打診があったそうだ。
打診と言うのは 『SUDO』 がクレームの現状をマスコミに公表し社長交代を
打ち出すのなら、入荷の見合わせは凍結してもよいということだった。
それが、例の速報を発表せざるを得なかった結果なのですと、知弘さんは苦々
しい顔をした。
こうなると、取締役の中に敵側に通じるものがいることは疑いようがない。
それは誰と繋がっているのか……
脅しをかけていた問屋なのか、得体の知れぬ者の仕業なのか、または、保身に
走る身内の自作自演なのか、皆目見当がつかないということだった。
「珠貴の失踪を知る者は、社内でもほんの一握りです。
取締役と宝飾部門兼務の部長、あとは母親だけ。紗妃にも伝えていません」
「警察には」
「取締役連中が反対で……身代金の要求もないのだから、
誘拐ではないだろう。本人の意思ではないかと」
「そんな! ここまで揺さぶりをかけられて、
実際に珠貴の行方が知れないのに、なにを言ってるんだ。
たとえ本人の意思であったとしても失踪となれば、
捜索を依頼できるではありませんか。
理由はなんだっていいはずだ。とにかく探し出さなくては」
「そうですが、常務と専務が、珠貴が失踪ときまったわけではない。
社名が表に出て騒ぎにでもなったらどうするのだと言い張って、
社長としても対応に苦慮しているところです。
父親としては娘の行方を知りたい。だが、公の立場がそれを許さない」
身内すら信じられない須藤社長の心情を思うと、いたたまれない思いがする。
何より大事な娘の行方が知れないのだ。
「そこで近衛君、君に協力を頼みたいのですが」
「どんな協力でもします。具体的におっしゃってください」
「近衛家の方々は、警察や諜報機関に携わる方が多いそうですが、
その力をお借りしたい。
それと君の情報網も……なんとしても珠貴を探し出したい。お願いできますか」
「もちろんです」
私は首を大きく縦に振った。