ボレロ - 第二楽章 -


珠貴の顔が華やかに微笑んだのは、大叔母の言葉を言って聞かせたとき

だっだ。

見上げた顔は嬉しそうで、背中にまわした手に力が込められた。



「大叔母さま、本当に素敵な方ね。また、お会いしたいわ」


「青木のおばあさまには会っているみたいだよ。知ってた?」


「いいえ、初めて聞いたわ。私もあれから祖母には会ってないの」



観月の会で出会った大叔母と珠貴の母方の祖母は、連れ合い同士のつながり

があり、それ以来交流が始まっていた。



「私もね、お正月に会えないのは寂しいと思ってたの」



甘えた声がくすぶっていた情熱を引き出す。 

頬においた手に顔を預けた珠貴が、ゆるりと目を閉じた。


唇を離す、ふぅ……っと小さく息をはき、とたんに心細い顔になる。



「お時間は大丈夫? 夕方から雪ですって、早めにこちらを出たほうがいいと

思うけど」


「今日は戻らない。そういう段取りになっているんだ。

おばさまの忘れ物を取りに行った、急に仕事の呼び出しが入って戻れなく

なった。と、こんなシナリオだ」


「まぁ、でも、元旦からお仕事なんて、無理があるんじゃないかしら」


「海外の相手なら無理はないだろう。理由はどうにでもなる」



やっと落ち着いた表情になり、体ごと私に寄りかかりすべてを預けてきた。

静夏は無事に戻ったのだろうか……

珠貴を抱き寄せながら、出掛けの妹の顔が浮かんだ。



「知弘さんの別荘に行くんでしょう? 私も乗せて」


「なんだ、おまえも脱走か」


「人聞きの悪いこといわないでよ。知弘さんに向こうでお世話になったから、

新年のご挨拶です」


「挨拶なら今日じゃなくてもいいだろう。元旦早々二人も抜け出してみろ、

お袋の機嫌が悪くなる」


「縁談が待ってるのは、宗だけじゃないのよ」
 

「へぇ、おまえもそんな歳になったんだな」


「どうでもいいから乗せて」



こちらの返事も待たずに、さっさと助手席の乗り込んできた。 

車が走り出すと、静夏の一方的な小言を聞かされることになった。



「宗はバカよ」


「いきなりなんだよ」


「バカだからバカって言ったのよ。あんなところで葵さんの名前をだすなんて、

信じられないわ」


「本当のことを言っただけじゃないか」


「結婚しないとは言ってない宣言、お母さまがどんなに喜んだかわかる? 

そのあとに葵さんの話題でしょう。宗の気になる相手だと思うに決まってる

じゃない」


「まさ、そこまで短絡的じゃないだろう」


「そのまさかです。母親としては、息子が気に入った人をと思うものなのよ。 

それに、八木沢さんのおうちなら申し分ないわ」


「そんなの関係ないだろう…」


「関係あります! 釣り合いがあるじゃない、誰でもいいってわけじゃない

のよ。宗だってわかってるから珠貴さんのこと……

あ、誤解しないでね。珠貴さんのおうちと釣り合いがどうのってことじゃない

から……ごめんなさい……」


「気にしてないよ」



縁談が嫌で、世話になった知弘さんに挨拶に行くと言い両親の元を抜け出した

静夏だったが、このときの私は、妹の本当の理由にまだ気がついてはいな

かった。 





< 175 / 287 >

この作品をシェア

pagetop