ボレロ - 第二楽章 -


『年末から年始にかけ、大雪となった日本列島です。 

各地で交通機関が乱れ、回復には今しばらくの時間が必要で……』


帰省客の足も乱れる予想だと、新年二日目のニュースはくり返し天候不良を伝

えている。

二日の正午までに帰って来ればいいと、知弘さんに言われていた。 

都内も午後から雪の予報がでていることを考慮して、そろそろ帰り支度をはじ

める必要がありそうだ。

のんびりしていると、須藤家からの迎えの車が、先に別荘についてしまう恐れ

がある。

新春早々、珠貴と過ごす時間を持てたのだから良しとしなければならないが、

別れる寂しさはぬぐえない。

珠貴も同じ思いでいるらしい。



「真昼のシンデレラの気分だわ。

もっと雪が降ればいいのに、そうしたら迎えの車も来られないはずよ」


「そんなに都合よくいかないよ」


「知弘さんの別荘、かなりの山手でしょう。車も立ち往生するに決まってるわ」


「さて、どうかな。

君を迎えにいくために、運転手は最大の努力をすると思うけどね。

社長命令だ、使命感もある。何よりお父さんが待ちわびているだろう。

それに、今日から正式に復帰だろう? 

二日から役員集合とは気合が入ってるね」


「初代からの慣例で、正月二日に役員が打ち揃って顔合わせなんて、

いまの時代に合わないと思うのに、その席で挨拶するために 

”ご心配をおかけいたしましたが、このように元気にしております……” 

って、原稿を三枚も暗記させられたのよ。気が重いったらないわ。

はぁ、ここに靴でも置いていこうかしら」



シンデレラになぞらえた冗談だろうが、帰りたくないと駄々をこねる珠貴の

顔は、私の決心を鈍らせるのにもっとも効果的だ。

けれど、無理をして珠貴を外出させてくれた知弘さんとの約束を、たがえるわけ

にはいかない。

着替えは済んでいるのに、ベッドサイドから立ち上がろうとしない珠貴に手を

差し伸べた。

差し出した手に応じたが、顔は見るからに不満そうだ。



「次に会えるのは、ずいぶん先ね……」


「この先、しばらく予定もかみ合わないからね」


「今年から、顔を出す新年の会が増えたのよ。

父が私を連れて行くと言い出して」


「須藤社長は、君に直接あとを譲るつもりなんだ」


「異業種交流の新年会にまで、連れて行かれるとは思わなかったわ」


「それって、5日の会だろう? 俺も出るよ。

ウチの社長も一緒だ、おそらくお袋も」



思わぬ偶然に顔を見合わせ、それから 「わっ」 と小さく叫んだ珠貴が嬉し

そうな顔をした。

お母さまはなぜ? と聞かれ、夫人たちが会の運営に関わっていると教えな

がら、ある思いつきが浮かんだ。



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