後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 アイラの手が首から下げた青い宝玉に服の上から触れた。出立前に父から持たされたものだ。貴重なサファイアを魔水晶でくるみこんだその品は、どれだけ遠く離れていようとアイラと父を結びつける力を秘めていると聞いた。

 父が、厳重に結界を施したタラゴナ皇宮にいたとしてもだ。

「そうか――しかし、あいつら怪しすぎるんじゃないか?」

 いえ、あなたも怪しいですよとはアイラには言えなかった。最初のうちは商人らしく、おとなしくしていたイヴェリンだったが、すっかり元の言葉遣いに戻ってしまっていた。

「イヴェリン様、地が出てます」
「――しまった。すまない――だが、お姉さまと呼べと言わなかったか?」
「お姉さま、今夜の宿はあの店でいいかしら?」

 アイラが指さしたのは、街道沿いにある小さな宿だった。フェランやライナスたちとやり合っている間にあたりはすっかり暗くなっている。その店からこぼれる光に吸い寄せられるように二人は入っていった。

 少しおいて、騎士たち二人も続いて店に入ったが、他人のふりをつらぬいたのである。
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