後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 アイラがたずねると、ダーシーはわずかに口角を上げた。

「少しだけ、戻ってきた。できることなら思い出さない方がよかったとも思うよ」
「あら、まあ」

 なんだか今日のダーシーはいつもより疲れて見えるとアイラは思った。三十超えたばかりの男性をつかまえて、疲れているというのも失礼な表現だけれど。

「皇帝陛下の許可はいただいてある。この皇宮の中で一番安心できるのは皇女宮の書庫だろう? そこでお会いしたい」

「でも、今日は午前も午後も公務で埋まっているんです。夜にならなければ……」

 さすがに夜に皇女宮にダーシーを入れるのもどうかと思って、アイラは困ってしまった。

「わかった。では、エリーシャ様になるべく早く、とお伝えいただけるかな? カーラは宮に入る許可が下りなかったけれど、ベリンダがいれば問題ないはずだ」
「かしこまりました」

 そういうことならアイラとしても異存はない。ダーシーと別れて皇女宮に戻る。

「あら、ずいぶん遅かったのね」

 外出のためのドレスに身を包んだエリーシャは、アイラが室内に入るのと同時に声をかけてきた。
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