後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
憧れのそれはそれは立派な……
 ワインが足りないと、それから酒蔵まで二度往復させられて、エリーシャが眠りに落ちたのは真夜中過ぎだった。

 やれやれ。
 
 散らかったテーブルを片づけながらアイラは苦笑する。結局エリーシャのペースに乗せられてしまった。

 ひょっとして、父に愛されてないのではないか――常日頃、そんな不安を抱えていたのは否定できない。

 彼は、アイラには何も話してくれなかったから。

 宮廷魔術師だった過去は教えてくれたけれど、どの程度の腕の持ち主だったかなんて、エリーシャに教わるまで知らなかった。

 彼女は、父の書物の中から何を探し出すつもりなのだろう。当面は、エリーシャの調査につき合うことになりそうだ。

 テーブルを拭いていたアイラの手がとまる。

 アイラの一番の利用価値というのはそこなのではないだろうか。
 
 アイラ自身は魔術師ではないけれど、父の研究室を片づけていたから、中に何が書いてあるのかくらいはわかる。

 ――だとしたら。
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