後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「……あのくそ親父っ!」

 思わずアイラは絶叫した。

 呆然とするアイラに、とどめの笑顔をイヴェリンは振りまいた。目の前で契約書をひらひらとさせる。

「さすがに元宮廷魔術師だね。君が拒んだ時には、大変なことになるようきちんと呪いまでかけてくれている――さて、どうするね?」
「……どうするねと言われても!」

 ばんばんとアイラがテーブルを叩いて、上に置かれた食器ががたがたと揺れる。

「わたしに! 選択の余地なんて! ないですよね!」

 アイラの大声に何事かと、店主が部屋をのぞき込むが、イヴェリンのにこやかな笑みによって追い払われてしまう。

 イヴェリンは長い脚を組み直すと、アイラに微笑みかけた。

「君に選択の余地がないのはわかっているが――ね。さて、こちらの話を聞いてもらう気になったかな?」
「……聞くしかないんでしょ」
「……お茶をもらおうか」

 イヴェリンに言われて、アイラは一度厨房へ行く。店主の気の毒そうな視線からは顔を伏せて、怒りのあまり震える手を必死で押さえつけた。
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