ティーチ?
「うれしい、ですよ。うれしいです。……でも……」

「でも?」

「でも、だって先生が、まさかそこまでしてくれるとは思ってなくて……」



そうやってぶらぶらと足を揺らす彼女に、少しだけギクリと緊張しながら──……なんでもない風を装って、俺は再度マグカップを持ち上げた。



「……別に、たまたまだけどね。ほんとにたまたま会ったから、聞いただけ」

「でも宮内先生、私なんかに、紅茶まで出してくれて、」



そこで顔を上げた彼女が、俺を見て、ふわりと笑う。



「宮内先生はやさしくて、いい先生ですね」

「ッ、………」



その言葉と表情に。とっさに、何も言えなくて。

……だって俺は、“いい”先生なんかじゃない。

ここまでやさしくしたいと思うのは、君だけで。

すきになってはいけない、手を出してはいけない女の子に、よこしまな想いを抱いている。

理由がどうであれ、放課後にこうして君とふたりきりでいられることを、本当はどこかでよろこんでいる。



「……どうだろう。僕は、“いい”先生ではないかもなぁ」

「えーっ、そんなことないです! 宮内先生はいい先生です!」



カップを持っていない左手でこぶしを作り、やけに力を込めてそう話す彼女に、俺は苦く笑って。



「……ありがとう」



お願いだからそうやって笑わないで。無防備な表情を、見せないで。

──本当は、俺だって教えてほしい。

この気持ちの殺し方も育て方も、わからないんだ。
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