君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】



「どうした?晃穂ちゃんか?」


何時の間にか俺の傍に来た尊夜が声をかける。


「あっ、晃穂からも来てたけど、母さん……来るってさ。
 父さんと」


っと受信メールを尊夜にも見せると、
アイツは溜息をついた。

「尊夜のお父さんは?」
「まさか……来ないだろ」


そう言いながら、アイツは黙り込んだ。


「隆雪は?」

「まだみたいだな。外はまだ雪が激しいし、交通が止まってんのかも知んねぇな」


そう言ったとき、俺たちが居る楽屋の扉が開いた。


部屋の外には血の気が失せた、アイツの弟が電話を握りしめたまま
託実の傍へと歩いていく。


「どうした?雪貴?隆雪から連絡来たか?」


ベースを触りながら、顔をあげて告げた託実に、
雪貴は信じられない言葉を告げた。


「会場に向かう兄さんの前に、
 雪でスリップしたダンプカーが突っ込んできて今病院に搬送されたそうです。

 両親にもまだ詳しい状況がわかっていないみたいですが、
 意識不明の重体だと言うことです」


雪貴はそう言うと、その場で力が抜けかのように座り込む。


「雪貴、隆雪の搬送先は?」

「神前だと言ってました」

「了解。
 祈、ちょっと雪貴頼むわ。
 
 俺、宝珠姉のところに行って、ついでに親父に連絡をつける」

そう言うと託実は慌ただしく楽屋から飛び出す。

「託実、一人で抱えんなよ。オレも手伝う」

っと慌てて後を追いかける尊夜。


「憲さん、暫く雪貴くんについてて頂けますか?
 僕、飲み物頂いてきます」

そう言うと祈もまた、楽屋を出ていった。

楽屋の時計は、
すでに開場時間が過ぎていて開演時間まで30分を切っている。



祈が貰って来た飲み物を飲んで少し落ち着いた雪貴は、
今度は思いたったように覚悟を決めた眼差しで、
隆雪の荷物の前へと向かった。

ハンガーに吊るされたままの隆雪の衣装。

その衣装を雪貴は自ら身に着けると、
何かに憑りつかれたように、隆雪のステージメイクを始める。


「おいっ、何してんだ?」

「俺が兄さんの居場所を守ります」

「おいっ祈、ここ頼む。託実のところに行ってくる」


そう言うと楽屋から飛び出して俺は、
託実と尊夜の元へと走る。
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