さよならの魔法
気になるのは、教室の中でも後ろの方にある席。
1番前に配置されてしまった私の席から、遠く離れた場所にある席だ。
そこに座っているのは、紺野くん。
私がずっと、想いを寄せている人。
1年生の頃から、見続けてきた人。
初めて会った入学式の日から、惹かれていた。
その笑顔に。
その声に。
紺野くんの全てに。
大好きな人の声って、不思議だ。
聞こえない様にと努力していても、自然と聞こえてきてしまうもの。
耳に入ってきてしまうもの。
紺野くんの声に混じって、女の子特有の高い声が聞こえる。
増渕さんの声。
紺野くんの大切な人。
紺野くんに選ばれた、女の子の声。
ズキン。
ズキン、ズキン。
紺野くんと増渕さん。
2人の声を聞くだけで、針が突き刺さったみたいに痛み出す心臓。
制服の上から、心臓の辺りをギュッと押さえ込む。
「ユウキ!」
「茜、何だよ?」
「次、化学だよ。ね、一緒に行こうよ?」
親しげな会話。
弾む声。
ヒリヒリする。
心が焼き付いて、酷い火傷を負った感覚に陥る。
そっと後ろの方に視線をやれば、そこには予想と違わない姿。
紺野くんが着ている、真っ白なシャツ。
真っ白なシャツから伸びる腕に、自分の腕を遠慮なく絡める増渕さん。
それはどこからどう見ても、仲のいいカップルだった。
夏休みに入る前よりも、2人の距離は近付いている。
私の目には、そう映った。
(………紺野くん。)
ねえ、紺野くん。
夏休みの間にも、増渕さんと会ったんだよね。
ただのクラスメイトでしかない私とは違って、増渕さんはいつでも、紺野くんに会える。
気兼ねなく、紺野くんに会いたいと言える。
2人の仲は、更に良くなったのだろうか。
絆は深まってしまったのだろうか。
そんな風に考えてしまう自分が、嫌だ。