さよならの魔法
よく知りもしないのに、夏休み中の2人の姿が頭に浮かぶ。
今みたいに、仲良く寄り添って。
仲睦まじい2人の様子が、消したくても消せないほどに脳に刻み込まれていく。
私は、素晴らしい人間なんかじゃない。
完璧な人間とは程遠い、そんな人間。
紺野くんにとっていいことを、素直に喜べない。
考えてしまうのは、ネガティブなことばかり。
いいじゃない。
これでいいんだよ。
好きな人が、幸せになれる。
私ではない人だけど、きっと紺野くんのことを笑顔にしてくれる。
これでいいんだ。
これで。
そう思っているのに。
思わなければいけないのに。
暗く沈んでいく気分に追い打ちをかけるのは、私にとっては天敵に当たる人物。
短い髪をサラリと揺らせ、私の目の前に立つ、1人の女の子。
強気な瞳が、私の怯えた目を捉える。
磯崎さんだ。
私がこの教室の中で、1番苦手な人。
この学校の中で、最も関わり合いたくない人。
磯崎さんはニヤニヤと薄気味悪い笑みを張り付けて、言葉を投げかけてきた。
「天宮さーん、なーにしてるの?」
優しげな声音に、思わず寒気が走る。
背中を伝う冷たい汗に、身震いをする。
この人にこんなに優しく話しかけてもらったことなんて、1度もない。
何かがある。
これは、前触れでしかないのだ。
不吉な予感しかしないのは、磯崎さんから受けているいじめのせいだろう。
「べ、別に………何も………。」
悪いことなんて、何もしてない。
ましてや、磯崎さんに対しては。
それなのに、ドクンと飛び跳ねる心臓。
磯崎さんは、超能力者だ。
私の心を、的確に読んでくる。
弱っている時を狙って、ここぞという時に突いてくる。
私が1番落ち込んでいる時に声をかけてくるのは、決まって彼女だ。