さよならの魔法
(もう、いじめられないんだ………。)
怯えながら、学校に行くこともなくなる。
涙を堪えて、家に帰ることもなくなる。
そう考えるだけで、憂鬱な気分も少しずつ晴れていく。
この空の様に。
春の明るい空の様に。
自分と同じ名前の季節と同じく、清々しい気持ちになれる。
今朝までは、あんなにも緊張していたのに。
ご飯も喉を通らないほど、怯えていたのに。
今は、真逆の気持ち。
飛び上がって、喜びたい。
世界中の人に、今日はいいことがあったんだって教えて回りたい気分。
「やったぁ!」
小声で、ガッツポーズ。
私は浮かれた気持ちのまま、校舎の中に駆け込んでいった。
古びた、3階建ての校舎。
これでも、一応は鉄筋コンクリートで造られているらしい。
両親が通っていた時代には、木造校舎だったらしいけど。
だけど、今では空き教室だらけ。
昔は今よりもずっと生徒の数が多くて、もっとたくさんのクラスがあったらしい。
それもこれも全て、この町出身の両親から伝え聞いた話だ。
1階のちょうど真ん中。
そこが、私の新しい教室。
1年3組。
私の新たな生活が始まる場所。
中学時代の1年間を過ごすであろう教室。
私は1年3組の教室を前にして、立ち止まっていた。
(う………、緊張する………っ。)
教室の中を覗き込んでは、結局入れずにドアの前で縮こまってる。
ずっと、同じことの繰り返しだ。
分かってるよ。
分かってる。
この中に、あの子がいる訳じゃない。
私をいじめていたあの女の子は、この教室にはいないのだと。
分かっているはずなのに、入れないまま。
知らない人だらけの教室。
見慣れぬ人ばかりの教室。
人見知りの私が、緊張しないはずがない。
第1関門は突破したけど、その先があったのだ。