さよならの魔法



空気が似てる。


いつも教室の端にいて、みんなの輪の中には入らない。

真面目で、大人しくて。


纏う雰囲気が、天宮とちょっとだけ似てるんだ。



フワフワした長い髪を、キュッと編み込んで。

編んだ髪を震わせて、橋野は続けた。



「そういうの………、良くないと思う。」


誰も、言わなかった言葉。

誰も、言えなかった言葉。


俺が磯崎にずっと言いたかった言葉を、橋野が先に言う。



すごいと思った。

チャレンジャーだと思った。


俺でさえ飲み込んでいた言葉を、大人しいはずの橋野が言っている。



クラスでは、どちらかと言えば目立つ方の俺。


友達も多い。

部活の仲間もいる。



一方の橋野はと言えば、地味で目立つとは言えないタイプだ。


分厚いレンズの眼鏡。

表情を隠す様に、俯いてしまう顔。


だけど。



目立つのに意気地なしの俺と、目立たないのに勇気のある橋野。

みんなの前で、天宮に声をかけた彼女。


偉いのは、どちらだろう。

そう問われれば、それは間違いなく橋野の方だ。



磯崎はと言えば、さっきよりも険しい顔をしている。


眉間に刻まれたシワ。

もう、それは女の子らしい顔でも何でもない。


自分に歯向かう人間がいるのが、よっぽど気に入らないのだろう。

苛立った様子で、こう怒鳴り付けた。



「橋野さん、何か用なの!?私達、天宮さんと話をしているだけなんだけど。」


気の弱い人間なら、この言葉だけで参ってしまうだろう。


それだけ威圧感があって、迫るものがある。

人を押さえ付ける様な、何かが。



強い口調でそう言った磯崎の顔は、バカみたいに誇らしげな顔。

どうだ、とでも言わんばかりの表情。


しかし、橋野は屈しなかった。




「天宮さん、次、移動だよ?一緒に行こう。」



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