さよならの魔法



その為なら、他人の犠牲は仕方ない。

自分がその立場になるまで、きっと茜は変わらない。


俺が選んだのは、そういう女の子だったのだ。



辛辣な言葉ばかりが、俺の脳内を駆け巡る。



「ユウキだって、自分の彼女がいじめられてたら嫌でしょ?あの子と一緒にいじめられてたら、恥ずかしいでしょう?」



俺のことを、そんな風に見ていたの?

そんな風に思っていたの?


俺はそんなこと、思わない。

思わないよ。



好きな女の子がいじめられても、俺は逃げたくない。

いじめられているからという理由で、別れを選んだりしない。


かばってやりたいと思う。

俺のこの手で、守ってあげたい。


だけど、茜は違うんだな。



茜は俺が他人から疎まれる存在だったら、今みたいに接してくれないのだろう。

ユウキと嬉しそうに、俺の名を呼ぶことはないのだろう。


きっと離れていく。


俺から離れていく。



醒めていく気持ちは、自分でも止められなかった。

もう1度愛そうと思っても、茜のことを同じ目で見ることは出来なかった。


夏に盛り上がっていた恋は、急速に冷えていく。



季節の移り変わりとともに、空気が冷たくなる。

それと同じくして、俺の心も冷たくなっていく。


秋が終わって、冬が来て。

雪が降り始める頃には、空気は肌を刺すほどに冷えきっていく。



寒いのなら、暖房を付ければいいだけのこと。


石油ファンヒーターのスイッチを入れれば、すぐに体も温まる。

かじかんだ手も、室温と馴染んで解れていく。



だけど、俺の心だけは凍ったまま。

頑ななまでに、冷たくなったまま。


体は温まろうとも、心の芯は冷えきったままだった。





時間が経てば、変わるのだろうか。

そう、考えたこともある。


時間が経てば、許せる様になる。



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