さよならの魔法
『前夜』
side・ユウキ







俺が見ていたものは、何だったのだろう。

俺が見ていた彼女は、何だったのだろう。


好きだったよ。

俺なりに、彼女という存在を愛そうとした。



もっともっと、好きになれると思っていた。

愛おしいと感じた気持ちは、嘘じゃない。


それなのに、俺の彼女を見る目は変わってしまった。



彼女の。

茜の、あの言葉を聞いてから。





「さ、紗由里ちゃんとは、特別に仲がいい訳じゃないの………ユウキも分かってるでしょ?」


知ってるよ。

そんなこと、分かってる。


磯崎と茜が、それほど仲がいいって訳じゃないことも。

茜がどこか磯崎に怯えていて、逆らえないということも。



「言えないじゃない、そんなこと。大して仲良くもないのに、止められないじゃない………!」


止めて欲しいなんて、言ってない。

そんなこと、俺には言えない。


言える権利もないだろう。



俺は、茜と同じ立場。


見ているだけで、手出しもしない。

眺めているだけの、ただの傍観者の俺には、そんなことを言う権利はない。



「………私には関係ない!」


関係がなかったら、見て見ぬフリをしても許されるのか。



「私はいじめてないし、いじめられてない………。それでいいじゃない!」


自分がいじめられていなければ、それでいいのか。

自分さえ良ければ、それで構わないのか。


自分のことしか、見えてないのか。

自分のことしか、考えていないのか。



自分がその立場に代わったら、どう思うのだろう。


この子は。

茜は、どう思うのだろう。



「かわいそうだとは思うけど、しょうがないじゃない!だって、あの子をかばったら………私が標的になるかもしれないんだよ?」


自分が標的になるのが怖いんだ。

天宮みたいに目の敵にされて、執拗に付き纏われることが怖いだけなんだ。



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