さよならの魔法



チョコレートを入れた箱とリボンの間に挟んである、小さなカード。

宛名は、大好きなあの人。


紺野くん。

手の届かない、遠い人。


この小さなカードに、想いの全てを書いて。



今日が最後だ。


こうして、紺野くんのことを想うのも。

紺野くんのことだけを考えるのも。


頑張らなきゃ。

そう気合いを入れて、私は早めに学校へと向かった。





誰よりも先に学校へ行き、誰よりも早く教室へと辿り着く。


外気と同じくらい、冷たさに満ちた狭い部屋。

誰もいない、朝の教室。


人のいない教室は、不気味なほどに静かだった。



ここだけが、世界から切り離されているみたい。

ここだけが、別の世界に移されてしまったみたい。


その静けさが、速まる心音をより際立たせている。



ドクン。


ああ、ダメだ。



ドクン、ドクン。


緊張するには、まだ早い。

それなのに、体だけは先に反応している。



結果なんて、分かってるよ。


紺野くんが、増渕さんと付き合い始めた日から。

ううん、紺野くんのことを好きになった、あの春の日から。



分かってたよ。

分かってた。


私と紺野くんは、釣り合わない。

紺野くんは眩しくて、眩し過ぎて、私なんかにはもったいないもの。


紺野くんは、きっとこう言う。



「ごめんね、天宮さん。」


困った顔で言うんだ。



「俺、彼女がいるからさ。」


増渕さんの隣で、そう言うに決まってる。

明るくてお似合いの彼女の隣で、そう言って断るんだ。



結果が見えていても、止めようとは思わない。

今日だけは。


緊張するのは、全てが初めてのことばかりだから。



緊張を紛らわせようと、バッグの中から本を取り出す。


この間、図書室で借りた本。

恋愛物の小説と同じくらい好きな、ファンタジーが詰め込まれた本。



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