さよならの魔法



あの時の俺は、何1つ知らなかった。

茜のことを、上辺のことしか知らないままだった。


知っていたことなんて、ほんのわずかなことだけだった。

ほとんど何も知らなかったクセに、俺は返事をしてしまったんだ。


付き合い始めることを決断してしまったのだ。



それが、今に至る原因。

全ての始まり。


バカだ。

バカなのは、俺だ。



単純で。

浅はかで。


告白されたからって、浮かれてたんだ。



友達まで傷付けた。

矢田が茜のことを好きなのを知っていたのに、理屈で理由を作ってまで、茜と付き合うことを選んだ。


そうやって、大事な人まで傷付けた。



友達の恋路まで邪魔して、訪れたのはこんな結末。


ほら、見ろ。

自業自得じゃないか。



安易なあの時の俺の考えが、今の事態を招いた。

今のこの苦しい状況を導いた。


だったら、全てを元に戻すべきなのは、俺だ。

謝らなければならないのは、俺。


誰にも、責任なんてない。

あるとすれば、俺が責任を負うべきだ。





決めたのだ。


茜と別れると。

茜からのチョコレートは受け取らないと、そう決めたのだ。



このままの状態で関係を続けても、苦しいだけだ。

俺も茜も、お互いにつらくなるだけなのが分かっている。


彼氏と彼女。

そんな関係を続けることに、何の意味があるというのだろう。



ズルズルと続けたって、意味がない。

何も残らない。


残るとするなら、この苦い思いだけ。

更に傷付けて、苦しんで、傷がより深くなるだけだ。



幕を引くのは、俺の責任。

安易な考えで付き合うことを決めてしまった、俺の責任だ。


茜の為に最後に出来るのは、別れを告げることだけ。



(学校、行きたくないな………。)


生まれて初めて、そう思った。


俺にとって、学校とは楽しい場所だったから。

行きたくないなんて、思ったことは1度もなかった。



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