さよならの魔法



学校に行けば、友達に会える。

自然と笑顔になれる。


そういう場所。



行きたくない理由なんて、今までなかった。


だから、休んだこともない。

サボろうと思ったこともない。


でも、今日だけは行きたくない。

体も、心も、全てが重い。



(部活の朝練、行かなくちゃ………。)


弓道部にも、朝練がある。

強制参加ではないけれど、意外と練習熱心な俺はほぼ毎日出ていると言っても過言ではない。


今の時期は、3年生もとっくに引退している。

下級生を引っ張るのは、俺達2年生の役目。



さあ、早く学校に行くんだ。

学校に行って、着替えて、弓を引くんだ。


真っ直ぐに的を狙って、射る。

心を無にして、集中して。


脳がそう急かしているのに、何故だか体は言うことを聞いてくれない。



重い。

重たい。


しんどい。



結局、俺が登校したのは大分時間が経ってから。

ホームルームが始まる、数分前のこと。


登校した俺を待ち受けていたのは、自慢だったはずの彼女の茜だった。









「ちょっと、ユウキ。すごいギリギリだよ?」


俺をたしなめる言葉。

しかし、その口調は晴れの日の太陽みたいに明るいもの。


茜の笑顔に、俺の心が痛む。



(茜………。)


そんな顔で笑うなよ。

俺に微笑みかけてくるなよ。


茜は知らない。


俺が、心の中で何を思っているのか。

何を考えているのか。



俺、別れたいと思ってるんだぞ。

お前と、茜と………別れることばっかり考えてるんだ。


その笑顔を壊す言葉を言うつもりでいるなんて、知らないんだろう。



俺のせいだ。

自分の安易な行動のせいで、この現実を招いてしまったのだ。


茜は悪くない。

茜は、自分の思った通りに行動しただけ。


それを止める権利は、俺にはない。



自業自得だ。


それなのに苦しい。

息が詰まって、窒息しそうになる。



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