さよならの魔法



俺は、面白いだなんて思えない。

天宮の困った顔を見て、楽しいと思ったことは1度もない。


人が困っているのを見て、楽しいだなんて思えるか。

いい退屈しのぎだなんて、思えない。


あんなバカげた行為を見ていても、胸糞悪くなるだけだ。



天宮の前に立つ、磯崎。

磯崎の目が、いびつに光る。


鈍い光を宿した瞳が射るのは、ただ1人。

天宮だけ。




「ねー、これ、なーに?」


そう言う磯崎の手には、ある物があった。


小さな箱。

丁寧にラッピングされているらしき、水色の箱。

同系色のリボンが、わずかに手の間から見える。



俺のいる位置からではよく見えないけれど、どうやら磯崎の所有物ではないらしい。

それだけは分かる。


その証拠に、天宮が必死に手を伸ばしていた。



磯崎が持つ箱に向かって、真っ直ぐに。

悲しいくらいに、必死に。


あの箱が磯崎の物であるならば、天宮はあそこまでして箱に手を伸ばそうとはしないだろう。

磯崎もまた、あんな風にわざとらしく、箱を持ち上げたりはしないはずだ。



きっと、あれは、天宮の物。

天宮が、誰かの為に用意していた物。


磯崎が、それを取り上げたに違いない。



「い、や………、やめて………。」



天宮の小さな手が、箱を目指す。

しかし、天宮が頑張って手を伸ばしても、磯崎はスルリとそれを避ける。


背の小さい磯崎が、磯崎よりもほんの少し大きな天宮を翻弄している。



それは、いじめ。

いじめ以外の何物でもなかった。


この世で最も残酷で、虚しい遊び。

絶対、してはいけないこと。



天宮の所有物らしい箱から、何かを取り出す磯崎。

カードを開いて、更に輝く瞳。


ああ、きっとロクなことを考えていないな。

そう思った瞬間、呼ばれた名前。



「紺野くーん、聞いて聞いて!」


自分の名前が呼ばれるだなんて思っていなかった俺は、振り返って目を見開いた。



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