さよならの魔法
ああ、ダメだ。
人の悪口なんて、言いたくない。
他人のことを悪く思いたくない。
そんな俺でも、磯崎には嫌悪感しか持てない
。
この女をよく思おうだなんて、これから先も無理だろう。
「紗由里ちゃん、行っちゃやだー!」
「引っ越しても、連絡してね!!」
「紗由里ちゃん、私だって寂しいよー。」
その光景が白々しい茶番劇に見えてしまうのは、俺の性格が悪いせいか。
それとも、本当に茶番でしかないのか。
磯崎を取り囲む、取り巻き達。
取り巻きの女子連中だけではなく、他の女子達も集まり始める。
そこには、茜の姿もあった。
「かわいそうだとは思うけど、しょうがないじゃない!だって、あの子を庇ったら………私が標的になるかもしれないんだよ?」
あんなことを言っていたのに。
心の中では、蔑んでいたクセに。
それでも、お前はそこにいるんだな。
磯崎の周りに集まって、周りに合わせて悲しいフリをするんだ。
この中で、本当に悲しんでいる人間は、どれだけいるのだろう。
何人の人間が、磯崎との別れを悲しんでいるのだろう。
そんなことを思った。
クラスのリーダー的な存在で。
誰よりも気が強く、プライドが高く。
周りの人間を強く引っ張りながら、振り回している。
良くも悪くも、大きい存在だったのだ。
このクラスの中で、磯崎 紗由里という女は。
磯崎がいなくなった教室は、とても穏やかだった。
物足りないと思うほど、穏やかだった。
気の抜けた炭酸。
磯崎の取り巻きだった連中は、萎んでしまった風船みたいに大人しくしてる。
このクラスを淀ませていた、いじめ。
残酷で。
残虐で。
虚しいだけの行為。
天宮を苦しめ続けた根源であるいじめは、中心人物が1人抜けただけで、呆気ないほどあっさり終わってしまった。
この教室に、いじめをする人間はいない。
あんな残酷な暇潰しをする人間は、もう存在しない。
平和になったはずなのに、俺の考え込む時間は増えていく。