さよならの魔法



「俺と茜は、もう別れたはずだろ?」


冷たい男だと思う。


気持ちは、もう離れてしまった。

茜の隣に寄り添うことは、もうないと言える。



嫌悪感さえ、抱いてしまうのだ。


好きだった茜。

愛そうと、俺なりに努力した。


そんな彼女を、今では冷たくあしらっている。



自分勝手であることは、承知している。

俺の中では、はっきりと線引きされているらしい。


大切な彼女と、そうでない女の子。

今の茜は、大切とは思えない存在であることは確かだ。



「ユウキ、冷たーい!」

「………とにかく、離れろって。」


周りを見渡せば、ホームルームはとっくに終わっていた。

ボーッとしているのなんて、俺くらいなものだ。


1時間目の授業の準備をしているヤツ。

机にかじり付いて、参考書を読み漁っているヤツ。


思い思いの時間を過ごしている中、俺は茜に抱き付かれていたらしい。




2年の頃と違うこと。

それは、この場所から表面上はいじめがなくなったことだけではない。


あの残酷ないじめがなくなった途端、クラスのみんなに勉強モードのスイッチが入ってしまったのだ。

不思議なことに。



遊んでいる場合ではないと、自覚したのだろう。

いじめなんてくだらないことをしている時間はないのだと、ようやく気が付いた人間が出てきたということだ。


受験生。

その単語は、人をこんなにも簡単に変えていく。




焦れって、言われているみたいだ。

もっともっと焦れよって、背中を突き飛ばされている気分。


あの頃とは別の意味で、何となく居心地が悪い場所になった。



「こんなの、スキンシップだよ。私達、友達でしょ?」


俺の態度にもめげることなく、茜は懲りずにギュッと抱き付く。

そんな茜に、俺が内心うんざりしているとも知らずに。



スキンシップ。

ただのスキンシップ。


茜の言葉には無理がある。



茜がこんなことをするのは、俺に対してだけ。

俺だけだ。


他の男に、こんな風に抱き付いたりしているところを見たことがない。



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