さよならの魔法
急かされれば、やる気を失う。
追い詰められれば、逃げたくなる。
分からなくなる。
何の為に頑張っているのか。
何の為に勉強しているのか。
理由さえ、見失ってしまいそうになるから。
これも、一種の反抗期ってやつだろうか。
親に対してだけではなく、社会全体に対しての反抗。
ああ、考えることは多い。
考え過ぎて、頭が痛い。
悩みは尽きない。
考えることも、山ほどある。
他人からしてみれば、くだらないこと。
それでも、俺にとっては、どれも深く根付いてしまった悩みの種だ。
「はぁ………。」
誰にも気付かれぬ様に息を吐き、眉間にシワを寄せる。
全て、吐き出してしまえたらいいのに。
言いたいこと。
悩んでいること。
全部、表へ出すことが出来たら、きっと楽になれるのに。
伸びていく背。
1年の頃より、10センチ以上は伸びた。
筋肉質になって、どんどん男らしくなっていく体。
変声期を経て、低く変化していく声。
体だけは大人に近付いていくのに、心が追い付いていかない。
取り残された様な気さえする。
ぼんやりと佐藤先生の話を聞き流していた、その時。
突然、後ろからギュッと抱き付かれてしまった。
「ユウキ、何してるのー?」
しなやかに響く、高い声。
後ろから回された、細い腕。
強く回された腕のせいで、少し息苦しく感じてしまう。
振り返る必要なんて、なかった。
振り返らずとも、俺には分かってしまうから。
この声の主。
俺に抱き付く、その人の正体。
この声の主は、茜。
俺に抱き付いているのは、ほんの3ヶ月前まで俺の彼女だった女の子だ。
振り向かず、俺は冷たくこう告げた。
「茜、こういうの、止めろよ。」
こんなこと、ほんとは言いたくない。
冷たくしたい訳じゃない。
それでも、言わなければならないことがある。
言わなければ、伝わらないことがある。