さよならの魔法



たまには、手料理を食べてみたい。

メニューなんて、何でもいい。

真っ黒焦げの卵焼きだって、構わない。


そんな風におねだりしたら、あの人はどんな顔をするかな。



分かっているのは、そうねだっても、その願いは受け入れてもらえないこと。


きっと、作ってくれないだろう。

面倒な顔をして、非情に私を切り捨てるであろうこと。



固くなったご飯を咀嚼して、親の帰りを待つ。

たった1人、誰もいない家で。


お父さんは残業中。

お母さんは叔父の家。


もっとも、お母さんの行き先は定かではないけれど。



1人が嫌だと、泣く年じゃない。

私だって、来年には高校生だ。


大人と子供の中間。

中途半端に大人びて、中途半端に子供の気持ちが残る年頃。



体は大人に近付いているけれど、中身はまだ子供なのだ。

1人ぼっちは、やっぱり寂しい。


怖い訳じゃない。

でも、誰もいない家に取り残されれば、どうしたって不安な気持ちに陥ってしまうものだ。




早く、帰ってきて。

1人にしないで。


寂しいよ。

1人ぼっちの家は、やっぱり嫌だよ。



うるさくてもいい。

愚痴ばかりでもいい。


1人にしないで。

お願いだから。



真っ暗な家で待つ時間は、思ったよりもずっと長く感じられて。

待ちくたびれて。

それでも、まだ待って。


それでも帰らない両親のことを考えながら、部屋で勉強していたんだ。

私は。




「もう1回、寝ようかな………。」


煌々と灯る蛍光灯の灯りを消して、ベッドへ潜り込む。


机でそのまま寝入ってしまったせいで、体中が悲鳴を上げている。

座ったままでなんて、寝るもんじゃない。


眠りが浅かったせいか、寝た気もしない。



(首まで痛い………。)


首をさすりながら、布団にくるまろうとしていた時だった。



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