さよならの魔法
いつもは行かない、実習棟の1階。
そこにあるのは、先生達の根城である職員室だ。
俺は迷うことなく、そこへ向かって足を進めていく。
「ねえねえ、ユウキ。どこに行くの?」
未だに腕を組もうとして寄ってくる茜を交わしつつ、進むスピードは緩めない。
「仕事すんの。」
「仕事?」
「そう。職員室に行って、先生引っ張ってくる。………先生を何人か連れて行けば、売り上げに貢献出来るだろ?」
デート気分であったらしい茜には、そんな考えはなかったのだろう。
目をパチパチと瞬きさせながら、きょとんとしている。
青い法被をはためかせながら、歩いていく廊下。
視線の先にあるのは、先生達の根城。
もう少しでその場所に辿り着こうとしたその時、俺の耳に違和感を感じずにはいられない声が入り込んだ。
悲しげと言うべきか。
苦しげと言うべきか。
悲鳴。
そう、悲鳴に似た声だと感じた。
「?」
何だろう。
誰の声だろう。
学校祭に相応しくないその声に、首を傾げる。
キョロキョロと辺りを探ってみて、すぐに見つけた人の波。
たくさんの生徒でごった返す職員室前は、いつもよりも数倍賑わっていると言っても過言ではない。
閑散としていた職員室前の廊下は、驚くほど混み合っている。
聞き間違い?
気のせい?
あの悲鳴に似た声は、俺にだけ聞こえたのだろうか。
足を止めた俺につられて、茜も立ち止まる。
「ユウキ………?」
不安げに、俺を見て名前を呼ぶ茜。
別れる間際、よく俺に見せていた表情だ。
振り返った先。
茜が立つ、ずっと向こう。
職員室前の廊下のずっと先に、何かが見えた気がした。
「天宮さんはずるいよ。………ずるいんだよ。」
言い争う声が、雑音に紛れて届く。
聞き覚えのある声。
その声が発する、天宮さんという単語。
視線が向く。
廊下の先に釘付けになる。