さよならの魔法
あんな夢を見たからだろうか。
それとも、寝起きに両親の喧嘩を見てしまったからだろうか。
どちらにしても、気分は良くはない。
朝の空気に触れ、解放されていく。
憂鬱な気分も。
過去も。
私を覆う暗い影が、朝の瑞々しい空気によって晴れていく。
「んっ、眩しい………。」
キラキラ。
キラキラ。
朝日が真っ直ぐに、私の体に降り注ぐ。
朝の光に溶けていくみたいだ。
ユラユラ揺れる、制服のスカート。
少しの風で、真っ白なスカーフもはためく。
空気も風も、全てが心地良い。
家にも、自分の居場所がない。
学校にも、自分の居場所がない。
以前はそのことが苦しくて、苦しくて堪らなかった。
たった1人。
この世には、自分しかいない様に思えて。
そんなはずはないと頭では理解していても、孤独に苛まれた。
1人なのは、今も一緒だ。
家にも、居場所はない。
学校にも、友達はいない。
それは変わらないけれど、変わったのは私の心。
学校に行けば、紺野くんに会える。
話せなくても。
隣の席ではなくても。
遠くから見つめることしか出来なくても、それでもいいんだ。
紺野くんの笑顔が、私を救ってくれる。
心の内に潜む孤独を忘れさせてくれる。
嫌いだった、朝の時間。
学校に行けと急かされているみたいで、どうしようもなく暗い気分になっていた時間。
そんな時間をちょっとだけ好きになれたのは、紺野くんのお陰。
時計の針が刻む音。
それは、カウントダウンみたい。
紺野くんに会えるまで続く、カウントダウン。
チク、タク。
チク、タク。
腕にはまった時計にたまに視線を送りながら、秒針の音を聞く。
秒針の音が鼓膜を震わせる度、鼓動も速くなる。